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レポート

スマートコミュニティを巡る国内外の動向

1)スマートグリッドからスマートコミュニティへ

スマートグリッド1)は、電力インフラのスマート化のことであると考えればよい。そもそも電力は貯めるという発想でインフラが構築されていない。需要側の電力需要に対応した電力を発電所から供給する「一方通行」の流れとなっている。ちなみに、原子力発電所は、発動や停止に不向きな発電所であり、一度、起動させたら常時稼働を継続し、定期点検等のタイミングで停止するというのが基本的な使い方であるが、こうした電源をベースロードと呼ぶ。一方、火力発電所は、出力調整用に活用される。現在、原発の再稼働に関する議論が行われているが、原発が稼働できないとベースロードがまるまるなくなってしまう状況に陥る。

その結果、需要に対して、供給量が不足してしまうと大規模停電等の不測の事態を引き起こす可能性があるため、節電対策を講じる必要があるというのがいわゆる「節電」の議論である。

スマートグリッドでは、電力の流れが「一方通行」から「双方向」になる。例えば、太陽光発電が大量に普及すると、今まで電力を受け取るだけであった需要家サイドに発電デバイスが設置されることになる。さらに、これらに蓄電池等の蓄電デバイスやスマートメータ等が接続され、ICT技術を活用した需給コントロールを行うことによって、さまざまなビジネスチャンスが生まれる。簡単にいうと、スマートグリッドが注目されている背景は以上のようなものである。欧米では、電力の自由化が進んでいるため、発電所(日本でいう電力会社)と需要家との間に新しいビジネスが生まれやすい。消費者が電力会社を選択できるというのもその一例であろう。しかし、地域独占という仕組みを有する我が国においては、電力会社の了解なしには取り組めない部分も多く、市場が期待するほど大きな動きにはなっていない。東日本大震災を受けて、電力に関する注目が高まっているが、今後、どのような方向に議論が展開するのか注視しておく必要がある。

スマートグリッドに関する世界各国の代表的な動向を整理しておこう。米国は、大規模停電のニュース等が記憶に残っている方もいると思うが、そもそも電力インフラが脆弱であり、それらの改善を検討するなかでスマートグリッドに注目が集まってきた。欧州では、国同士の電力融通が盛んに行われてきた歴史があることと、高い再生可能エネルギーの導入目標からグリッドの高度化が要求されるなかで議論が進展している。アジア諸国では、最先端の技術導入や産業政策の視点からさまざまな実証事業が展開されている。そのなかで、日本は、電力インフラという観点からすると、ある程度のスマート化は進展しているといえる状況であった。そのなかで、2012年7月に施行された再生可能エネルギーの全量買取制度に伴い、既存の電力網(系統電力)に大量に再生可能エネルギーが投入されることを踏まえ、スマートグリッドの議論がなされてきた。なお、スマートグリッドに関しては、系統電力との連携を前提とするか、離島等で検討されるように、完全に自立で電力インフラを整備するか等の論点があるが、ここでは、その議論はしないこととする。

以上の背景をみると、各国のスマートグリッドに取り組み始めたきっかけ、つまり、入口は異なっているようである。しかし、各国が目指す着地点(出口)は変わらないのではないか、というのが昨今の論調である。それが、スマートコミュニティである。エネルギーインフラはもとより、地域を形成する資源循環インフラや水インフラも含めて地域全体の情報化・高度化を図ることを目指したものがスマートコミュニティである。

本レポートのねらいは、このスマートコミュニティのコンセプトを、より地域サイドの視点にたって見直すことであるが、この段階では、スマートコミュニティなるものは以上のような形で理解しておいてほしい。

2)我が国のスマートコミュニティへの取り組み

我が国のスマートコミュニティへの取り組みとしては、経済産業省が中心となって進めている横浜市、豊田市、けいはんな、北九州市の4都市が知られている 。上記以外にも内閣府が進めている環境未来都市 等の取り組みも進められているし、震災以降では全国でさまざまなプロジェクトが立ち上がっているが、その名称はスマートタウン、エコシティ、エコタウン等統一されてはいない。

経済産業省WEBサイト
http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/smart_community/)参照。
内閣官房地域活性化統合事務局「環境未来都市」構想WEBサイト
http://futurecity.rro.go.jp/)参照。

このなかで、我々が直接的・間接的に関与しているプロジェクトについて紹介する。このなかで、北九州市においては、環境に配慮したまちづくりを目指した「八幡グリーンビレッジ構想 」の段階から連携してきた。この地区では、さまざまな取り組みがなされているが、昨今の電力事情から注目されているのは、地域の電力供給を担っている東田コジェネである。同街区では、特区制度を活用し、自営線によって電力供給を行っている点である。地域独占への社会的な反発から、こうした地域ごとの電源を確保するための代表的事例として注目されている。しかしながら、ここまで思い切った施策を各地域が採用できるかに関しては疑問視する声も多いことは事実である。また、あまり語れることは少ないが、北九州市の最大の特徴は、天然ガスCGS(コジェネレーションシステム) から排出される熱を隣接する製鉄所に全量供給している点である。規模の大小に関わらず、CGSを有効利用するためには熱の利用先を確保することが極めて重要である。

その他に、私の本属である早稲田大学環境総合研究センターがキャンパスを構えている埼玉県本庄市における本庄スマートエネルギータウンプロジェクト は、私自身がプロジェクトマネージャーを務めている。新幹線の本庄早稲田駅前の区画整備事業の進展に合わせて、早稲田大学が有するさまざまな技術・ノウハウをまちづくりやエリアマネジメントに展開していこうという産学官連携プロジェクトである2)(図2)。このプロジェクトは、スマートコミュニティのコンセプトデザインの重要性を感じるきかっけとなったプロジェクトであるが、ここではこの程度の紹介にとどめておきたい。

図2 本庄スマートエネルギータウンプロジェクトの概要

本庄スマートエネルギータウンプロジェクトの概要
「八幡グリーンビレッジ構想」に関しては、北九州市WEBサイト
http://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/file_0357.html)を参照されたい。
電力と熱を同時に供給できることから熱電併給システムと呼ばれる。高効率なシステムであるが、熱需要が十分でないとその効率性を発揮することができないことが課題と言われている。
プロジェクトの概要に関しては、財団法人本庄国際リサーチパーク研究推進機構のWEBサイト
http://www.howarp.or.jp/project/energytown.html)を参照されたい。

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