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レポート

スマートコミュニティの条件

1)スマートコミュニティへのアプローチの原則

図3は、スマートコミュニティのみならず、地域活性化等の案件を取り扱う場合に、我々が原則と考えているものであり、先に述べた八幡グリーンビレッジ構想の際にも提示してきた。まず、第一に都市・地域等を構成するストックとフロー全体を視野に入れることである。同図では、フローとして、人流、物流、情報流、金流、エネルギー流、廃棄物流と表記している。「これまで」は、お金や人・ビジネスが外に出ていくだけで、ものやエネルギーを消費し、廃棄物を発生させ、経済的な面でも環境負荷の面でもマイナス面ばかりであった。その流れを逆にする発想が「これから」は求められるであろう。具体的には、地域内にコミュニティビジネスを創造し、外部にものやエネルギーを供給できる仕組みを構築することによって、人・ビジネスがコミュニティを活性化し、その結果的とした地域のお金を生み出す。また、地域における既存産業や地域特性を最大限に生かすことがその大前提となろう。スマートコミュニティの構築は、こうしたコンセプトを具現化するプロセスであるといえる。

図3 スマートコミュニティへのアプローチの原則

スマートコミュニティへのアプローチの原則

2)これまでのアプローチで欠けている視点

あるビジネス誌 に掲載されていたスマートシティに関する特集記事に興味深い記事が掲載されていた。同誌では、インフラ輸出事業の可能性として注目されている海外でのスマートシティ事業を例に、日系企業の取り組み姿勢に対して問題提起した内容となっている。そこでは、スマートシティはあくまでも手段にすぎないという前提で「3つの落とし穴」を指摘している。

  1. リスク回避を優先することにより、プロジェクトへの乗り遅れが目立つということである。これは、新しい仕組みを構築しようという動きに対する我が国の企業の「様子見」の姿勢から起因するものであり、私も同感である。とりわけ、自社のソリューションの売り先のひとつとしてスマートシティプロジェクトをみている場合には、単なる調達先のひとつとして終わってしまうのが関の山であろう。
  2. 電力に固執し過ぎて、視野が狭まるっていることを指摘している。この点に関しては、冒頭から述べてきているように、都市単位で議論するからにはインフラ全体を見渡すべきであろう。
  3. スマートシティプロジェクトにおけるノウハウの蓄積の重要性を、先行投資をしてノウハウを蓄積しようと活動を活発化している外資系企業と自社のソリューションの「単品売り」だけを目論む日系企業の姿勢の違いを比較しながら述べている。
「日経ビジネス(2011.12.5)」の特集記事では、スマートシティビジネスにおける海外進出を目論む日系企業の課題を指摘している。

震災以降、国内でもさまざまなプロジェクトが立ち上がっていると述べたが、各々のプロジェクトに参画している各社にも共通していえる内容である。

上記の「3つの落とし穴」に加えて、主に国内のプロジェクトをイメージしつつ、私が感じている問題点は以下のとおりである。

  1. 「市民不在」であるということである。スマートシティ/タウンと呼ぶにせよ、スマートコミュニティと呼ぶにせよ、そこに、立地する企業や市民等が存在するはずである。ところが、大半のプロジェクトでは、インフラ側のハード・システム寄りの議論に終始している感が否めず、「誰のためのスマートコミュニティなのか?」ということに対する答えを持ち合わせていない状態で進んでいる。
  2. 行政や地域ニーズと民間ニーズに大きなギャップが存在することである。この点に関しては、次項で詳述するが、これを埋める機能を持ち得ていないことも問題のひとつである。
  3. 議論の内容が「供給側」に偏っていることである。例えば、「原発を再稼働するか否か。」という二者択一の議論の延長線上にスマートコミュニティが位置付けられており、「再生可能エネルギーを大量に導入すれば、スマートコミュニティ」という短絡的な発想が主流になっていること等が挙げられる。エネルギーの問題ひとつとっても、原発云々ではなく需要側で工夫できる話はいろいろあるだろうし、さらには、それ以前にその地域の存在意義や価値を中心にものごとを論じることが置き去りにされてしまっている。

3)これからのアプローチで求められる視点

以上の点を踏まえ、どのようなアプローチをとるべきかを整理したのが、図4である。重要なのは、スマートコミュニティの対象となる地域を知ることから始めることである。これは、営業等で商品・サービスを売り込むときに見込み顧客の情報をとるのと同じことで、至極、当たり前の話であるが、この部分のプロセスが抜け落ちていることが多い。また、行政をはじめとする地域側もそれをうまく語れていないことが多い。どちらの立場にたって述べるかによって、言い回しが変わってくるが、それを読み取る努力をすることも重要である。例えば、私は、行政等の担当者がそれらをうまく語れないときは、市町村のWEBサイトは既存の資料等(最初のステップとしては、パンフレット等のまとめられたもので十分である)を通じてそれを読み取る努力をしている。

図4 スマートコミュニティへのアプローチで求められる視点

スマートコミュニティへのアプローチで求められる視点

ここでいう「地域を知る」とは、以下のような項目である。

  1. その地域で何を実現したいのか?
    各々の地域には、何をするにも「目的」があるはずである。具体的には、人口増加、雇用創出、産業振興等が挙げられ、被災地等では復興が喫緊の課題となっている。スマートコミュニティもそれに即したもの、あるいは、貢献するものであって然るべきである。
  2. その地域にはどんな暮らしが待っているのか?
    スマートコミュニティプロジェクトのなかでは、スマートハウスやスマートホームという名目で住宅用地がプロジェクトの対象となっていることも多い。ところが、そこに、居住した場合のメリットに関しては、ほとんど語られていない。あるいは、それ以前にどのようなターゲット層に居住してもらうことを想定しているのかも明確になっていないケースがほとんどである。入居者に限らず、企業誘致等を検討する場合には、進出する企業のメリットも当然、語られるべきである。ソリューションの話ばかりしていると、こうした肝心なところが抜けて落ちてしまう。地域市民のメリットは何かを常に意識する必要がある。
  3. その地域で守っていきたいものは何なのか?
    地域を知るためには、その地域における伝統や文化、特産品等が大きなヒントになるし、その価値観を共有することもプロジェクトを進めるうえで極めて重要となる。また、「交流人口の増加」をねらう際にもその地域における観光資源等を知っておくことが必要となる。
  4. その地域で解決しなければいけない課題は何なのか?
    いわゆる「課題解決型」のアプローチである。地域における廃棄物問題や高齢化への対応等が挙げられる。

以上の地域のニーズに対応する手段のひとつとして、スマートシティ&タウンプロジェクトがあるべきであるが、この間に大きな「谷間(ギャップ)」存在するのが現実である。つまり、地域側は、そのニーズが十分に語られず、そこに事業展開を目論む企業サイドも全く地域のニーズをくみ取れていない。さらに、行政等がこれまで全く取り組んでこなかったエネルギー分野へ取り組もうとすると、非常に中途半端な内容になるというケースも多い。本来であれば、新しい地域エネルギーシステムに関する独自の仕組みづくりを期待したいところであるが、単なる創エネ・省エネ機器等の補助金制度に落ち着いてしまう。これまでのエネルギー政策は、国とエネルギー供給事業者だけが議論してきたものであり、地域行政にそのノウハウがほとんどないこともその要因であると考える。偏ったメディアでの報道にもみられるように、この分野の人材育成も重要な課題である。

その結果、「再生可能エネルギーを導入したコミュニティがスマートコミュニティ」という極めて短絡的な議論になり、再生可能エネルギーの導入が目的化してしまう。これは、非常によくあるパターンであるが、メガソーラーや風力発電を導入すればよいという発想は、極めて稚拙であると言わざるをえない。再生可能エネルギーの固定価格買取制度 は、発電事業者と電力会社との間の関係で完結するものであり、その地域へのメリットを非常に出しにくい。その結果、ハード・システムだけの議論に終始し、どの地域のプロジェクトも似たような形に見えてしまうのである。

こうした流れでコンソーシアムを形成していくわけであるが、協議会形式でのコンソーシアムは各地で組成されているようである。問題は、その先にどのような戦略・シナリオで参加各主体にメリットがある形で還元できるかである。この点に関しては、「まちづくり」あるいは「まちそだて」という観点からすると、中長期的な視点でみると何をもって成果といえるのかを現時点で評価するのは難しい。しかしながら、プロジェクトに参画する行政や企業の「姿勢」に関しては留意しておくべきことがある。

太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマス等の再生可能エネルギーによって発電された電力の買取を電力会社に義務づける制度。2012年7月に施行された。
  1. シティやタウンという特定地域で取り組むことの意味は何なのか?
    これに該当するか否かは各々のプロジェクトの取り組み内容によって異なるが、その動機づけができていないケースが非常に多い。例えば、最近、住宅メーカー各社がスマートハウスの広告宣伝を始めているが、どれをみても戸建住宅1戸の単位で論じているようである。例えば、住宅メーカーがいうスマートハウスをたくさん並べて建てたら、それをスマートタウンと呼ぶのだろうか?さまざまな考え方があると思うが私自身はそう思わない。エネルギーを例に述べると、住宅も含めたいわゆる建築物に対して、共通していえることであるが、個別の建築物単位で再生可能エネルギーや未利用エネルギーの導入量の最大化を図るのは限界がある。エネルギー(電力、熱)を使う時間帯や需要(空調、給湯、動力等)の関係から、どうしても無駄が発生してしまう。それらをエリアのなかでシェアできないかという考え方が持てればタウンとして取り組むことの意義がでてくる。よく言われるところの「エネルギーの面的な利用」という考え方である。建物と熱源の関係を「1:1」の議論から「1:N」に展開させることが重要である。
  2. 社会インフラの再構築が求められているとすれば、何がボトルネックになっているか?
    民間企業がスマートシティ&タウンプロジェクトにするのは、さまざまな意味で新しい市場の創造の可能性を感じているからである。そのなかで、東日本大震災以降、急速に注目が集まっているのは、スマートシティ&タウンプロジェクトを通じて、どのような形で社会インフラの再構築が実現されていくのかという点である。ところが、そのためにどのような問題をクリアしなければいけないのか、つまり、ボトルネックは何のかということが共有されていないことが多い。そうなると、プロジェクトが単なる「客寄せパンダ」で終わってしまう。さらに、ここで重要なのは、参加主体の「覚悟」である。つまり、それらを通じて、新しい仕組みを創る覚悟があるかないかである。地域や行政サイドの対応からみれば、規制緩和・規制強化等も含めた新たな制度設計を実施するのか否か、新たな枠組みを検討するなかで行政がどのような役割を担っていくことを想定しているのか等である。一方、民間企業側の対応からすると、プロジェクトを通じて、新しいビジネスモデルを生み出すくらいの覚悟があるかないかということになろう。それがなければ、従来と何も変わらず、該当するプロジェクトが単なる「売り先のひとつ」にとどまってしまうのは明白である。この「覚悟」が示せないとどのような状況に陥るか?みんな「様子見」をしてしまう。その結果として、頭数をそろえてみたものの何も進まないという状況に陥ってしまう。もちろん、こうしたプロジェクトに参画するモチベーションはさまざまであるため「こうでなければいけない。」ということではない。混沌とした時代のなかで情報収集を行うことは重要なことである。しかし、その地域のことを考え、スマートコミュニティプロジェクトを通じて、「果実」を得たいのであれば、それなりの「覚悟」を示さないと前に進まない。どうやら、行政は民間企業に期待し、民間企業は行政に期待する、というボールの投げ合いのように状況に陥ってしまっているところも多いようである。

以上のような観点から、現在、進行しているスマートコミュニティプロジェクトに必要な視点としては、以下の3つが挙げられる。

  1. 必要なのは情報の「共有化」→窓口の一本化
    一見、同一エリアで展開しているプロジェクトにみえても、地権者等が複数存在する場合、個々の土地の取引ベースで話が進んでしまうことが多い。そうすると、統一感あるまちづくりが難しくなる。また、当該エリアでビジネスチャンスを伺う民間企業にとっては、必ずしもその地域に対する土地勘を有しているわけではない。これを解消するためには、窓口の一本化を図り、その地域で起こっていること、起ころうとしていることに対する情報を共有化することが極めて重要である。
  2. ステークホルダー間のギャップを埋める機能
    コンソーシアム型でプロジェクトを展開する場合、常に発生することであるが、とりわけ、地域サイドと民間企業サイドの認識のずれを埋める作業は必要となる。それを担うのがプロジェクトコーディネータの役割であるが、地域サイドの意向をくみ上げることができ、民間企業が要求するスペックに対する専門的な知見を有することが要求される。この部分の機能が弱いと円滑なプロジェクトの進行を阻害することになる。ちなみに、筆者はこの部分の機能をさまざまなプロジェクトで担おうとしている。
  3. エリアマネジメントを含めた産官学民の適切な役割分担と設計
    「まちづくり」という言葉からは「建物を建てるところがゴール」という印象を受ける。しかし、これも従来型の発想であると捉えるべきである。その地域に居住する人、事業を展開する事業者の方からみれば、10年、15年は当たり前で、数十年のスパンで物事を考えなければならない。拙速な成果を求めようとし過ぎると、ハコモノを造るだけで終わってしまう。その際に重要なのは、コミュニティが動き出した後に、コンソーシアムを形成している産学官民がどのような役割分担でエリアマネジメントを展開していくのかを予め設計していくことである。おそらくこの議論は、スマートコミュニティの出口、すなわち、ビジネスモデルの在り方にも関係してくる。これまでの不動産開発のように付加価値の低い土地を開発し、高値で売却するというビジネスモデルから、ICTやエネルギー、モビリティ等を含めた地域サービス事業やマネジメント事業によって、収益を得るというのがひとつの姿であろう。単にソリューションを販売するというのではなく、その新たなビジネスモデルの設計も含めて検討対象としないと新しいものは生まれない。

4)「共有」の概念

図5は、本庄スマートエネルギータウンプロジェクトで提唱している考え方のひとつである。新しい社会システムの構築や実現を目指すのであれば、そのパラダイムシフトをどのように組み込んでいくかを考えて然るべきである。

図5 本庄スマートエネルギータウンプロジェクトにおける「共有」の概念

本庄スマートエネルギータウンプロジェクトにおける「共有」の概念

従来のまちづくりでは、「公」つまり、公共事業等によって、道路、電力、都市ガス等のインフラ整備がなされ、そこに民間企業が土地を取得し、建物を建て、事業を展開するという構図であった。現在のエネルギー問題をはじめとする社会的な課題は、この従来の「インフラ」の考え方が変わってきている、あるいは、変えていかなければいけないことを意味している。つまり、スマートコミュニティに関する議論も同じで、地域で確保できるインフラは地域で自立して保有することが要求されているということである。それをこの図は、「共(シェア)」という形で表現している。すなわち、エネルギーを例にとると、今まで電力や都市ガス等のインフラは、空気のような存在で「つなげば供給される。」という感覚であった。それを再生可能エネルギーや未利用エネルギーを最大限活用しながら、地域で確保していかなければならない社会に変化しようとしている。

わかりやすい例として、地中熱ヒートポンプ を挙げよう。地中熱ヒートポンプは、未利用エネルギーのソリューションとして期待されているが、住宅や建築物の付帯設備として捉えると非常にお高い買い物になってしまう(単純回収年が長い)。しかし、それを付帯設備ではなく街区のインフラと位置付けたらどのようになるだろうか。街区全体に地中熱のインフラを整備し、当該街区に進出した建築物は必然的に地中熱から採熱される状況を創出する。トータルで要するコストは同じでも未利用エネルギーの波及効果という観点で意味は大きく変わってくる。分散型エネルギーシステムも同じである。また、街区全体のスマート化を実現しようとすれば、当然、ICT等を活用した新たなマネジメントシステムを構築することが必要であり、そのための新しいビジネスモデルを構築しなければならない。同図では、本庄スマートエネルギータウンプロジェクトで対象としているエネルギーやモビリティを基軸とした表現になっているが、各々の地域でこの「共」に相当する部分が何なのかを議論することも地域との情報共有を図るうえでは有効な手段である。例えば、地域における伝統や文化、価値観等もこうした形で整理していくことも今後、必要となってくるであろう。

おわりに

「スマートコミュニティの取り組みにおける成功事例を教えてほしい。」と聞かれることも増えてきた。ここでいう「スマートコミュニティ」のイメージとしてどのようなものを設定するかにもよるが、近年、話題になっているICTや再生可能エネルギー等を基軸としたスマートコミュニティの取り組みのなかでは「成功事例」と呼べるものはないという印象を持っている。あるいは、プロジェクトが動き出した直後であることを考慮すると、成功か失敗かを判断するのは時期尚早ともいえる。

安定した地温と気温の温度差を活用して空調等を稼働させる技術の総称。マグマを熱源とした「地熱」とは区別されるので注意されたい。

今後、スマートコミュニティへ取り組んでいきたいという地域も増えてくると考えるが、その際には、ICTや再生可能エネルギー等の難しいことを考える前に「自分達の地域をどうしていきたいのか?」という原点に戻ることを推奨したい。また、取り組むメニューに関しても先行事例に依存する必要はない。独自のスタイルでデザインしていけばよい。そのような意味では、「スマートコミュニティ」ではなく、まちおこしやローカルブランディング、6次産業化等のキーワードにおける成功事例をみていった方が参考になることも多々ある。こうした視点と本稿で示したICTの活用や再生可能エネルギーや未利用エネルギーへのアプローチを組み合わせることによって、地域独自の新しいスマートコミュニティの実現が可能となる。以上の取り組みが地域ごとに誘発されることを期待したい。

参考文献

1)横山隆一編著、災害に強い電力ネットワーク-スマートグリッドの基礎知識-(早稲田大学ブックレット:「震災後」に考える、002)、早稲田大学出版、2011。

2)小野田弘士、スマートソサエティの実現に向けた技術開発と都市開発プロジェクトへの展開可能性、都市環境エネルギー(98)、14-17、2011。

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